漢方医学は、約4000年の歴史を持つ、中国の伝統的な物の見方・考え方の基礎の上になり立った医学です。 日本には、2000年程前に伝わってきました。特に聖徳太子の遣隋使、奈良時代の遣唐使などにより、中国との交流が盛んになり、次々と新しい医学知識や薬物がもたらされました。薬物の一部は今でも正倉院に大切に保管されています。 これら中国からもたらされた知識や薬物を、我々の先祖は日本人の特性に合わせて発展させてきました。特に江戸時代に著しい発展を遂げ、現在の日本漢方医学の基礎が築きあげられました。しかし、明治時代になると政府の方針で西洋医学が導入され、漢方医学は一時消滅の危機にさらされましたが、漢方薬の必要性・有効性・安全性を経験した多くの人々の支持により、現在のように復活しました。
漢方医学は人間一人一人の持つ「自然治癒力=生命力=免疫力」を高め、病気や老化に対処することを基本にしています。また、心と身体は一体であるという「心身一如」の考えのもと、治療を行っています。
漢方治療は、自然界にある草・根・木・皮・動物・鉱物などを使用し「漢方薬=薬方」を作り、病気の治療や予防に使用してきました。漢方薬は私たちの祖先が数千年にわたり治療薬として服用し、有効性・安全性を確認して今日に至った「知恵の結晶」といえる大切な薬物治療なのです。
現在の医学は、西洋医学による治療が主流となっています。西洋医学が進歩したといっても、まだまだ原因不明の疾患・西洋薬による治療法のない疾患はたくさんあります。さらに西洋薬の副作用に苦しんでいる患者さんも多数来院しています。また、感冒のようなウィルス性疾患に対しては、有効な西洋薬はほとんどありません。抗菌薬は細菌感染には有効ですが、ウィルス疾患には全く無効であるにもかかわらず、感冒=ウィルス疾患に抗菌薬がむやみに投与され、耐性菌(抗菌剤の効かなくなった細菌)を増やしているのが現状です。
一方漢方薬は免疫力を高める薬剤ですから、感冒のようなウィルス疾患に対しては最も有効な治療薬なのです。
また、老化に伴い体のあちこちが弱ってきた高齢者には、少ない薬剤で有効性を発揮し、元気を取り戻す漢方治療は向いています。その他、心と体の異常が絡んだ精神神経疾患、原因不明で治療法の少ない慢性疲労症候群、アトピー性疾患・喘息・花粉症などのアレルギー性疾患、更年期障害・冷え性・不妊症など女性特有の疾患、癌手術後の症状改善など、漢方治療は一部の難病を除いてほとんどの疾患に対応可能です。但し、有効性のある西洋薬と漢方薬の併用は、より一層治療効果を発揮します。当院では、インフルエンザ・マイコプラズマ肺炎・難治性内耳疾患(メニエル病や突発性難聴など)・高血圧など多くの疾患に、漢方薬と西洋薬を併用治療し、その効果を実証してきました。
西洋医学を基礎として成り立っている現代西洋医学は、今多くの分野で行きづまり、多くの人が「代替え治療」などに走っています。その中で漢方治療の良さが見直され、70%の医師が漢方薬を使用しているといわれています。しかし、そのほとんどが漢方医学の基礎の上に漢方治療を行っているわけではありません。例えば「肝臓病に小柴胡湯」という宣伝に惑わされた医師が、小柴胡湯を130万人の患者に投与し、「間質性肺炎」という副作用により10名の方が亡くなり、「漢方薬には副作用がない」という神話が崩壊しました。本来、漢方薬は患者さん一人一人の病態=証に合わせて投与されて、始めて治療効果を発揮するものです。その病態に合っていれば「身体が楽になって、人生が楽しくなる」のです。漢方薬であっても効果のない薬物は、すぐ中止することです。「毒と薬は紙一重」のことわざは大切です。
漢方医療に健康保険が適用されて30年以上が経過していますが、いまだに「漢方薬は保険が利かない」と考えている方がいます。漢方薬は、一般の薬局では保険が利きませんが、当院では健康保険による漢方治療を行っていますので、保険証のある方は保険診療を行います。お腹が一杯になるほど多くの西洋薬を処方されている人、有効性のない漢方薬を服用している人。どうぞ、自分に合った漢方薬を服用し、楽しい人生を送ってみませんか。